対策と早期発見で
合併症・影響による
リスクを軽減

合併症

神谷レディースクリニックでは、不妊治療による合併症についても取り組んでいます。予防対策はもちろん、発症時に備えたバックアップ体制の充実など、患者様の不妊治療に安全を期しています。

OHSS(卵巣過剰刺激症候群)

排卵誘発剤の使用により卵巣が過剰反応を引き起こし、卵巣腫大・血液濃縮・腹水・胸水の貯留を認め、重症化すると生命を脅かしかねない疾患です。一般不妊治療で使用される経口排卵誘発剤(クロミッド)では、2.5%の割合で発生しますが、体外受精などの過排卵誘発法では6.6〜8.4%と高くなります。完全な予防は困難ですが、しっかりとした予防策を立て、早期発見により重症化させないことが重要です。

OHSSによる症状

合併症

OHSSのリスクファクター

  1. 多のう胞性卵巣(PCOS)をもっている方
  2. 男性ホルモンが高い方
  3. LH/FSH比が1.0以上の方、AMHが4.0ng/ml以上の方
  4. 卵胞数、採卵数が20個以上で 卵胞ホルモン(E2)が3000pg/ml以上の方
  5. OHSSの既往がある方

重症化を防ぐために

排卵を誘起させるhCGが、排卵後の黄体や小卵胞に作用して、腹水を招く活性物質を発生させることが分かっています。hCG注射の作用期間は、5〜7日間です。その後OHSSの症状は軽快しますが、妊娠によって胎盤から多量のhCGが生産され、重症化します。OHSSの発症・重症化が懸念される場合には、受精卵を凍結し、OHSSのリスクがなくなった時期に凍結胚移植を行います。

排卵誘発法の変更 低刺激誘発法や排卵前のhCGを、GnRHアゴニストの使用に変更します。
全胚凍結 新鮮胚移植をせずに、受精卵をすべて凍結する。
カバサール、カベルゴリン
(高プロラクチン血症の治療薬)
血管増殖因子(VEGF)を抑える作用もあり、排卵後の卵巣腫大や腹水産生の抑制によって、OHSSの症状の軽減・予防に作用します。
コースティング 卵胞数が多く、卵胞ホルモンが非常に高い場合は、hMG誘発剤を3〜4日間中止し、ホルモン値を下げます。体外受精などの排卵誘発は、複数の卵を得て良質な胚を選択するため、意図的にOHSSをつくるといっても過言ではありません。軽〜中等度のOHSSは、ほぼ全例に発症していますが、多くは軽い腹部膨満のみです。腫大した卵巣の茎捻転を起こさないために過度の運動は避け、腹痛、悪心・嘔吐、下痢、尿量の減少、過度の腹部膨満などが生じた場合は、早めの連絡・受診を行ってください。

採卵時の損傷・感染・出血

採卵は経腟超音波下で周囲の血流を確認し、慎重に行います。採卵には20〜21ゲージという細い針を使用し、吸引圧を200mmHg以下の低圧に保つことで、腸管や血管などの損傷を防ぎます。また前日から抗生剤を服用することで、合併症の予防も可能となっています。尿に血液が混じる(血尿)ことがありますが、心配はいりません。飲水し、血尿が軽減したことを確認してから、帰宅していただきます。

卵巣茎捻転(らんそうけいねんてん)

排卵誘発によって腫大した卵巣がねじれる卵巣茎捻転(らんそうけいねんてん)という合併症を引き起こすことがまれに(過去記録:緊急手術1例)あります。排卵誘発による治療が始まったら、スポーツや腰をひねる運動(ヨガなど)は、症状に合わせて控えることも必要です。

静脈血栓症

排卵誘発によって、静脈血栓症の発症が高まることがあります。その場合には、脱水になることを防ぎ、ウォーキングなど適度な運動が必要です。 採卵前後にDダイマーなどの測定により血栓の有無を調べます。

多胎

不妊治療の最終目的は、単胎妊娠によって「一人の健康な児」を出生することです。排卵誘発剤の使用により複数の卵胞を成熟させることで、多胎妊娠を発症させる場合があります。体外受精などでは、移植胚数によって頻度や程度に影響を及ぼします。多胎妊娠は、妊娠性高血圧症候群など母体合併症の増加や早産児の出生、児の神経精神発達異常の増加(※1)など医学的問題に加え、患者や家族の精神的・経済的負担、新生児医療体制への過剰な負荷などの問題を引き起こします。 体外受精-胚移植の場合、移植する胚の数を制限することが多胎妊娠の予防法ですが、1個移植でも、一卵性双胎が発症する可能性(1%以下)はあります。移植胚は、原則1個で行います。40歳以上の頻回不成功症例では、妊娠率を上げるために2個移植を選択する場合もあります。これは、日本産婦人科学会の会則に示されています。当クリニックでも単一良好胚移植を実施し、多胎率の減少と従来の妊娠率維持に努めています。

※1:1,000人あたりの発生率…単胎1.6人、双胎7.4人、品胎27人

異所性妊娠(子宮外妊娠)

卵管をはじめ、卵巣表面や腹膜などにも起き、子宮外妊娠とも言われています。性感染症(クラミジア、淋菌)の既往や卵管周囲の炎症、癒着など、卵管因子を持っている方は子宮外妊娠を起こしやすいです。体外受精-胚移植の場合、子宮腔内で移植した胚の一部が卵管腔内へ入りますが、生理的な卵管の機能によって子宮腔内へ戻って着床します。しかし卵管因子を持つ方は、子宮腔内へ戻ることなく卵管内にとどまり、子宮外妊娠を起こすことがあります。頻度は胚移植をして妊娠した症例の1〜3%となり、症例の90%以上は卵管因子や既往に子宮外妊娠がある方です。卵管水腫がある方は、胚移植前に卵管の切除や結紮をすると妊娠率が上昇し、子宮外妊娠の発症を低下させます。