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不育症の治療

当院では不妊・不育専門クリニックとして、不妊症のみならず、不育症の治療にも取り組んでいます。分娩施設への紹介までの良好な状態を支えるため、不育症専門の治療・心理的サポートなども行っています。

不育症とは

不育症の定義は、2回以上の流産(死産、早期新生児死亡の既往)がある場合とされています。
繰り返す流産などの喪失体験は、肉体的・精神的ダメージが大きくなりますが、今後の妊娠継続に向けて、
不育の原因(偶発的な染色体異常、リスク因子)をしっかり見極めることが必要です。

流産について

流産を2回以上繰り返した場合は「反復流産」、3回以上繰り返した場合を「習慣流産」と呼びます。流産は全妊娠の10〜20%で起き、流産全体の約90%を妊娠12週未満の早い時期が占めています。その原因の80%は、胎児(受精卵)の偶発的な染色体異常によるものです。流産の割合は、10代〜35歳までは横ばいですが、35歳以降は上昇し、45歳以上では80〜90%に至ります。妊娠された方の約40%の方が、一度は流産を経験していると言われています。

【生化学的妊娠について】

超音波検査で胎嚢が見えることなく、妊娠反応(hCG:ヒト絨毛ゴナドトロピン)陽性という生化学的反応のみで妊娠が終わってしまうこと。臨床的に、妊娠や流産として扱われません。

不育症のリスク因子

流産のリスク因子には、子宮の形態によるものや内分泌・血液の凝固系、自己免疫、夫婦の染色体異常などいくつかが挙げられます。グラフは全国で不育症患者さんに不育症の検査を実施し、リスク因子別頻度をまとめたものです。

不育症のリスク因子

  • 子宮形態異常
  • 甲状腺異常
  • 染色体異常
  • 抗リン脂質
    抗体症候群
  • 血液凝固因子異常
  • 自己免疫疾患
  • 慢性子宮内膜炎
  • 免疫学的妊娠
    維持機序の異常
  • 偶発的流産・
    リスク因子不明
不育症のリスク因子

発表:厚生労働省不育研究班
n=527(年齢34.3±4.8、既往流産回数2.8±1.4回、重複有り)

不育症 リスク因子の検査

子宮形態検査 子宮の内腔が正常かどうかを見ます。子宮形態異常には、中隔子宮、双角子宮、弓状子宮などがあります。他に子宮粘膜下ポリープや子宮粘膜下筋腫の有無を調べ、必要に応じて手術で切除します。
内分泌検査 甲状腺機能亢進・低下症や糖尿病、高PRL血症などは、流産のリスクが高まります。妊娠前から妊娠中にかけて、良好な状態を維持していくことが重要です。
染色体検査 夫婦のどちらかに均衡型転座などの染色体異常があるかを調べます。
血液凝固検査 ➀血液凝固因子検査
プロティンS欠乏症、プロティンC欠乏症、第XII因子欠乏症などの一部では血栓症などにより流産・死産を繰り返すことがあります。
➁自己免疫検査
自己免疫疾患には SLE(全身性エリテマトーデス)、リウマチ疾患、橋本病、膠原病などがあります。 代表的なのがSLEのLAC陽性(ループスアンチコアグラント陽性)です。抗リン脂質抗体もこの中に含まれ、流産を起こす因子となります。
EMMA、ALICE(慢性子宮内膜炎検査) 子宮内膜に存在する細菌を網羅的に分析する検査です。細菌のDNAを調べることで妊娠成功との関連が認められているさまざまな子宮内膜の細菌群を検出します。また、子宮内膜における細菌性病原体は、不妊および妊娠合併症に関係しており、子宮内膜の慢性的な炎症の原因に特に関わりが深い細菌性病原体の有無を検出します。また、子宮鏡にて慢性子宮内膜炎の特徴的な所見(マイクロポリープ、浮腫、充血など)の有無を 確認します。
免疫学的妊娠維持機序検査 受精卵は自分の遺伝情報と男性側の遺伝情報と半分ずつ持っているため、自分にとって半分は異物な成分から成っています。妊娠中は免疫学的寛容(免疫が見て見ぬふりをしてくれる)が働き、受精卵を許容することができると言われています。この免疫系を司る細胞のヘルパーT細胞には、Th1とTh2の二つの細胞があり、この二種類の細胞によって免疫バランスは保たれています。しかし、Th1値が高く、Th2値が低いなど バランスに障害が生じると、着床障害や妊娠しても妊娠している部分が女性の体から攻撃を受けることがあります。Th1/Th2の比率を血液検査で調べます。また、従来から行われているリンパクロスマッチ検査も行っています。

※抗リン脂質抗体とは

全身の血液が固まりやすくなり、膠原病などの疾患や不育症例の一部に認められます。この抗体ができることで、特に血液の流れの遅い胎盤のまわりは血栓が生じやすく、胎児に酸素や栄養がいかなくなり、流産や死産が起こると言われています。

検査項目一覧

リスク因子 検査項目
子宮形態異常 子宮奇形、子宮筋腫、子宮腺筋症
粘膜下筋腫
粘膜下ポリープ
子宮卵管造影、子宮鏡
経腟超音波、内診
MRI
内分泌異常 黄体機能異常 黄体ホルモン、PRL
甲状腺機能異常 甲状腺ホルモン、甲状腺自己抗体
糖尿病 血糖値、インスリン、HbA1C
高プロラクチン血症 PRL
血液凝固異常 血液凝固因子異常
・第XII因子欠乏症
・プロティンC欠乏症
・プロティンS欠乏症
 
血小板第XII因子
プロティンC
プロティンS
自己免疫疾患
・SLEなど
・抗リン脂質抗体症候群
抗核抗体、抗DNA抗体
抗CLβ2GP1抗体
ループスアンチコアグラント
APTT
慢性子宮内膜炎 マイクロポリープ
内膜浮腫・充血
子宮内膜細菌検査 (EMMA、ALICE)
子宮鏡
免疫子宮内膜組織診 (CD138 検出)
免疫学的妊娠維持機序の異常 クロスマッチテスト
Th1/Th2(免疫バランス検査)
その他
感染症 梅毒
HB、HCV
トキソプラズマ
マイコプラズマ
クラミジア
ウレアプラズマ
梅毒血清反応
HBs抗原、HCV抗体
トキソプラズマ抗体
マイコプラズマ抗体
クラミジア IgG・IgA 抗体
クラミジア PCR
その他細菌培養
染色体異常 転座など 夫婦染色体検査

不育症の治療

1.血液凝固異常には、抗凝固療法を行います。
低アスピリン療法 血小板が活性化しないように抑え、血液をさらさらにし、胎盤の血栓を予防します。
ヘパリン療法 1日2回12時間毎の皮下注射で血液凝固因子を抑え、胎盤の血流を良くして血栓を予防し、妊娠の継続を図ります。
※副作用…注射部位が炎症を起こしたり、硬くなることがあります。ヘパリン開始時は、血小板減少と肝機能の上昇などもあるため、血液検査で確認します。
2.慢性子宮内膜炎には、プロバイオティクス(乳酸桿菌)と抗生剤を使用します

子宮内膜細菌検査(EMMA、ALICE)の結果から、起原菌や病原菌に感受性の高い抗生剤を使用し、除菌治療を行います。また、子宮内の善玉菌であるラクトバチルス(乳酸菌の一種)が少ない場合、乳酸桿菌製 剤の腟錠などを使用します。

3.免疫療法

1.ピシバニールによる免疫刺激法
免疫学的妊娠維持機序の異常の場合、免疫力を強めて正常化させるため、ピシバニールを使用します。 ピシバニールは免疫機序全体を亢進させ、いわゆるまきこみ現象として妊娠の免疫学的維持機序を是正する方法になります。有効性に関してはいまだ結論は出ていない状態です。副作用には、局所の発赤・ 腫脹、発熱があります。

2.タクロリムスによる免疫バランスの改善
免疫のバランスを改善し、胎児を攻撃から守る治療には、免疫抑制剤のタクロリムス(内服薬)が有効とされており、分娩日前日まで使用します。妊娠判定が陽性になるが流産を繰り返す場合(反復流産の方)は妊娠判定陽性日から服用を開始します。

4.その他の治療

大量ガンマグロブリン療法、プレドニン療法などがあります。

心理カウンセリングについて

流産を繰り返す辛さは、周囲には伝わりにくく、時に孤独とさえ感じるかもしれません。「自分が何かしたから・・・」というものではありませんので、決してご自分を責めないでください。回復するまでに時間が必要なときもありますが、からだと心を休めて気持ちに余裕が出てきたら、表出することも必要です。看護師や心理士のカウンセリングも行っていますので、ぜひ活用してみてください。

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