排卵誘発剤のクロミフェンについて

排卵を起こす飲み薬には、他にどのようなものがありますか?

保険適用のものでは、クロミフェン以外にシクロフェニル(セキソビッド)があります。クロミフェンよりも排卵率はやや劣り、50%前後とされています。

海外では2000年頃から、アロマターゼ阻害剤(レトロゾール、アナストロゾール)という、閉経女性の乳癌の再発予防に用いる薬も排卵誘発剤として用いられるようになってきました。現在もアメリカでは十分なインフォームドコンセントのもとに、不妊治療に広く用いられています。

アロマターゼ阻害剤は月経中に4~5日間内服して、内服中の卵胞ホルモン(エストロゲン)を低下させ、それによって視床下部―下垂体を刺激して卵胞を発育させるもので、抗がん剤というよりはホルモン調整剤とでもいうべきものです。血中半減期は約2日間なので、月経中に内服するとその後の排卵で妊娠しても着床の時期には血中濃度はゼロになり、胎児にはほぼ影響がないと考えられています。

クロミフェンで排卵しない多嚢胞性卵巣症候群や乳癌、子宮体がん合併の方にはとても良い排卵誘発剤だと思われます。

当院では、2002年頃から上記の他にAMH(アンチミューラリアンホルモン)が高値でOHSS(卵巣過剰刺激症候群)が心配な方、従来の排卵誘発法でもなかなか妊娠しない方などの体外受精―胚移植の際に使用し、すでに数百人の生児を得ています。

クロミフェンとhCGを併用するという治療法もあるのですか?

クロミフェンで卵胞が発育しても、LHサージが起きないため排卵しないこともあります。そのような場合、hCGの注射を打つことによって排卵を起こすことができます。hCGを打つタイミングは、超音波検査や血中エストラジオール、尿中LHを参考にして決定します。ブセレリンという子宮内膜症の治療に用いる点鼻薬をhCGの代わりに使うこともあります。

クロミフェンによって先天異常児が生まれることはありませんか?

先天異常児が生まれる確率が高くなるという報告はありません。ただし、自然妊娠と比べるとやや流産率が高いようです。

その理由には(年齢など)さまざまな要因が考えられるので、はっきりとしたことはわかっていません。

クロミフェンは多胎妊娠の原因になりますか?

クロミフェンで妊娠した場合、約7.5%が双胎になります。三つ子(品胎)は0.3%、四つ子は非常にまれとされています。

クロミフェンによる排卵率に比べて妊娠率が低いのはなぜですか?

いくつかの可能性が考えられています。

まず、クロミフェンは頚管粘液を粘稠にするため、精子が頚管を通り抜けにくくなります。そのため卵子まで到達する精子数が少なくなる可能性があります。また、子宮内膜が薄くなるため受精卵の着床にはマイナスになるかもしれません。その他、基礎体温上で高温期になっていても実際は排卵していないこともあります(黄体化症候群:LUF)。あるいは、不妊の原因は無排卵のみとは限らないので、排卵させてもそれだけでは妊娠しないことがあります。

クロミフェン治療によって妊娠できるのは何%くらいですか?

無排卵の原因によって妊娠率には差があります。全体としては、クロミフェンを用いるとおおむね20%の方が妊娠します。

なお、無排卵ではない排卵のある原因不明不妊症にクロミフェンを用いても生産率(生児を得る確率)は変わらないとされています。

クロミフェンを飲むことでどれくらいの確率で排卵するのですか?

おおむね60~90%の人が排卵します。クロミフェンにあまり反応しないのは、エストロゲン不足になっている場合や高プロラクチン血症の方です。

クロミフェンにはどのような副作用がありますか?

副作用はまれにしか起こりません。最も多いものは、頚管粘液が粘稠になって精子が頚管を通り抜けにくくなるのと、腟が乾燥する、子宮内膜が薄くなる(そのため月経の量が減る)などです。このような副作用を抑えるためにも、クロミフェンは排卵を起こす最少量を用います。

クロミフェンを飲んでいる女性の約5%がのぼせを感じます。その他お腹が張ったり、乳房に不快感があったり、発疹・めまい・欝状態などがあります。また非常にまれですが視野の異常、すなわち眼が見えにくくなることがあり、この時にはクロミフェンを中止します。そのような場合には車の運転は注意しなければなりません。

クロミフェンの量を1日2錠ずつ5日間からさらに増量するのは有効でしょうか?

まず、日本の社会保険上は、1日2錠までしか認められていません。それ以上は自費扱いになります。施設によっては1日3錠まで用いるところもあります。それで2~3周期続けてみて、それでも排卵しないようならクロミフェンを増量するのではなく、他の排卵誘発法を考えます。

クロミフェンはどのような飲み方をするのですか?

クロミフェンは、1錠が50mgの錠剤です。

通常は、月経周期の2-5日目から1日1錠ずつ3~5日間飲むという方法から始めます。1錠でうまく排卵しない場合は1日2錠ずつ5日間へと増量します。これで排卵するならその後の周期にも同じ量のクロミフェンを投与します。排卵した(する)かどうかは、基礎体温と経腟超音波で確認します。1周期の中で5日以上空けて、再度クロミフェンを投与する「クロミフェン―ダブル投与」という方法も有効な場合があります。

クロミフェンとはどのような薬ですか?

クロミフェンは、無排卵治療薬の第一選択薬として最も広く用いられています。クロミフェンはその化学構造の特性により、作用する部位によってエストロゲンとして働く場合と、抗エストロゲンとして働く場合があります。クロミフェンは、視床下部にも脳下垂体にも排卵をおこすようにはたらきます。

視床下部のレベルでは、LH-RHのパルス頻度を増加させ、脳下垂体レベルではLH-RHへの感受性を亢進させます。この両方の作用により脳下垂体からのFSHとLHを増やし、それが卵胞発育を刺激するのです。またクロミフェンは卵巣に直接働いて、FSHの刺激に対する感受性を上げるという効果もあるようです。

無排卵症にはどのような治療が行われるのですか?

無排卵症の治療はその原因によって異なります。高プロラクチン血症にはその治療、痩せすぎによるものは体重を増やすこと、肥満のPCOSなら体重を落とすことなどです。それ以外のほとんどの無排卵症の治療には、まずクロミフェン(クロミッド・フェミロン・セロフェン)を用います。