卵巣過剰刺激症候群(OHSS)について

HMGを使う時に、どうすれば多胎妊娠やOHSSを予防することができますか?

超音波を用いて、卵胞数と卵胞径をきちんとモニターすることです。HMGの量は少なめから開始します。最後に注射するhCGの量も減らし、黄体期補助にhCGを用いないようにします。排卵のトリガーとして、hCGの代わりにブセレリン点鼻薬を使用するのも有効です。血中エストラジオールの値も参考になります。直径17mm以上の卵胞が3個以上できているか、エストラジオール値が700pg/ml以上の場合はhCGを注射せず、性交あるいはAIHをキャンセルとします。体外受精の場合は、おおむね発育卵胞数が20個以上(実際の採卵数で15個以上)、血中エストラジオール値が3000pg/mL以上の時は採卵はしますが受精卵を新鮮胚移植せず、全て凍結保存とします(選択的胚凍結保存)。そして、後日自然周期あるいはホルモン補充周期で胚移植を行います。この方法(選択的凍結胚移植)によって重症のOHSSはほとんどなくなります。同時に高プロラクチン血症の薬であるカバサール(カベルゴリン)が血管増殖因子を抑えることで腹水貯留の症状をやわらげます。

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)とはどのようなものですか?どのような治療を行うのですか?

OHSSとは、卵巣がHMGなどによって過剰に刺激を受けた場合に起こる状態のことで、通常はhCGの注射後に起こります。軽症・中等症・重症の3段階があります。

軽症は卵巣が大きく腫れて(6~8cm)、子宮の後ろのダグラス窩というところにわずかに腹水がたまる状態です。卵巣が大きくなるにしたがって重苦しい感じ・下腹部不快感・痛みなどを起こします。体外受精では大量のHMGを用いますのでほぼ全例がこの軽症の状態になります。基本的に安静と痛み止めのみで経過を見ますが、そう大きな問題とはなりません。

中等症ではさらに卵巣が腫大し(8~12cm)、腹水がへその下まで認められるようになります。直ちに入院の必要はありませんが腹部不快感、膨満感はよりひどくなり、体重が増えます。妊娠しなければ1週間以内に軽快します。腹水がへその上の上腹部に達すると、重症となり入院が必要です。胸水がたまって呼吸障害が出てくると集中管理が必要になります。身体の全体としては水分過剰ですが、血管内は血液が濃縮するため血栓症を起こしやすくなります。このようになる場合はほとんどが妊娠例であり、人工妊娠中絶が必要になることもあります。

OHSSの治療としてはその重症度に応じて点滴(賛否両論があります)、大量のアルブミン(血液中のタンパク)の補給、ドーパミン療法(腎臓の血流量を上げて尿が出るようにする)、抗凝固療法(血栓の予防)、腹水濾過再静注法(腹水を抜いて濾過して濃縮し血管内に戻す方法)などがあります。

HMGやリコンビナント―FSH の副作用にはどのようなものがありますか?

大きな問題がふたつあります。それは多胎妊娠と卵巣過剰刺激症候群(OHSS)です。

HMGを用いた場合、多胎妊娠率は20%くらい、OHSSは 4~24%に見られていました。

リコンビナント―FSHは低用量投与が可能なので、多胎妊娠率は5.7%、OHSSは0.14%という報告があり、かなり低率になっています。