不妊症とは?

1年といわず、早めに検査を受けたほうがよいのはどのような時ですか?

ひとつは、そのカップルに(自分たちでもわかるような)不妊の原因がある可能性が強い場合です。例えば、妻に無月経・月経不順・腹腔内の炎症がある・過去に癒着を起こすような手術の既往がある・性交痛がある・月経痛がひどいなどが認められる場合です。また、夫に成人後のおたふく風邪の既往や、何らかの薬を常用しているなどの場合も同じです。もうひとつは妻が35歳以上の場合です。その年齢になると残された時間があまりありませんので、早めの検査や治療が必要となります。

なかなか妊娠しない場合、どの時点で検査を受けるべきなのでしょうか?

健康な男女であれば、避妊をやめてから1年間で90%以上が妊娠します。ですので、子づくりを始めて1年間妊娠しなければ病院に行ったほうがよいでしょう。妻が35歳以上の場合は結婚して6ヶ月後には必要です。

不妊治療をしばらく中断することで妊娠しやすくなるのですか?

特に原因が見当たらない原因不明不妊症の場合、通院・治療そのものがストレスになって逆に妊娠しにくくなる可能性は否定できません。治療を休んでいるうちに自然妊娠したというのはよくあることです。我々の経験でも体外受精で妊娠せず、合間の自然妊娠やAIHで妊娠した方が相当数います。AIHで妊娠せず体外受精を数回施行し、結局合計で 21 回目のAIH で妊娠された方もいます。なお、卵管性不妊症で体外受精をしていた方の自然妊娠では、常に子宮外妊娠(卵管妊娠)に注意が必要です。

ストレスは不妊の原因になりますか?

これはまた難しい問題です。可能性としては、ストレスが不妊の原因になったり流産の原因になったりすることはありますが、客観的に証明する方法はありません。仕事などのストレスでセックスの回数が減るのであれば関係があると言えます。逆に、不妊が強いストレスになる場合は多いです。

肥満は不妊の原因になりますか?

肥満自体は不妊の原因になることはありません。しかし、肥満によって血液中のインスリンが上昇し、男性ホルモンが上昇するなど何らかのホルモン異常が認められれば、減量や糖尿病の治療薬であるメトフォルミンの内服が必要になることがあります。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの排卵障害があれば、肥満の程度に関わらず治療の対象になります。

子宮後屈は不妊の原因になりますか?

正常の女性の約80%は子宮がおなか側に傾いており、これを子宮前屈といいます。残りの20%は子宮が背中側に傾いていて、これを子宮後屈といいます。他に病気がなければ子宮後屈そのものは正常ですが、骨盤内の炎症や子宮内膜症などによって子宮の背中側に癒着があり、そのために前屈のものが後屈になっているのであれば、不妊症としての治療や手術を要することがあります。

不妊症は増えているのですか?

おそらく、増えていると思います。まず、男女とも結婚年齢が高くなり、また結婚してもすぐに子づくりをしなくなってきたということがあります。2013年度の日本の統計では女性の初婚年は29.3歳であり、1950年の23歳と比較してかなり高齢になっています。

女性でいえば女性ホルモンのピークは25歳です。ですから25歳前後で妊娠、分娩するのが一番トラブルが少ないのです。ホルモン的には35歳を過ぎれば更年期に入ってくるため、35歳以降はなかなか妊娠しにくく、妊娠中や分娩に際してもさまざまなトラブルが増えてきます。またセックスに関して欧米並みに開放的になってきたせいか、クラミジア感染などの性行為感染症による卵管性不妊も増えていると思います。最近話題の環境ホルモンも、精子の減少、性欲の低下に一役買っているようです。慢性的に景気が悪く収入も少なく子づくりどころではない、といったような社会的背景もあるかもしれません。

男性も年齢が上がると不妊の原因になりますか?

はい。しかし、男性の場合はおおむね60歳以降から妊娠に影響が出るようです。ただし、女性の卵子と違って精子はつねに新しく作られるので、80歳以上の男性でも精子があれば体外受精―胚移植(顕微授精)などで妊娠は可能ですし、当院でも夫が80歳以上である夫婦の妊娠・出産の例があります。

女性は年齢とともに妊娠しにくくなっていくのですか?

残念ながらそのとおりです。25歳以下の女性の場合平均2~3ヶ月で妊娠しますが、35歳以上の場合は6ヶ月以上かかるといわれています。

その理由のひとつに、卵子自身も老化するということがあります。女性は生まれた時にその一生で使う卵子がすでに卵巣にあり、新たに作られることはありません。40歳の女性は40歳の卵子を排卵するわけで、受精もしにくくなります。そのうえ、加齢とともに胎児の染色体異常の確率が上がります。染色体異常の受精卵はほとんどが着床しませんし、着床しても70%以上が流産に至ります。

また、年齢とともに排卵しない無排卵の周期が増えてきます。無排卵になると卵巣からの女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)が少なくなって、子宮内膜の状態が着床に適さなくなります。さらに子宮筋腫や子宮内膜症の頻度も上がるので、それも不妊の原因になります。最後に、夫婦とも年をとると性的なポテンシャルが下がって、セックスの回数が減って行くということもあるでしょう。

当院では自己卵による体外受精―胚移植において、48歳で採卵し、49歳で分娩した国内最高年齢の経験がありますが、治療方法にかかわらず45歳以上の妊娠・出産はなかなか難しいのが現状です。

不妊症とは、どのような人を指す言葉ですか?

一般に不妊症とは、他の人より妊娠のチャンスが少ない、すなわち妊娠しにくいカップルのことを指します。法律上、婚姻関係にあるかどうかは関係ありません。2015年に改訂された日本産科婦人科学会の定義では、避妊せずに通常の性生活を行っても1年以上妊娠しないカップルを指します。常にカップルで考えますので、たとえ再婚同士でお互いに子供がいたとしてもその夫婦間では不妊症、ということもあり得るわけです。なお、ヨーロッパ生殖医学会ではだいぶ以前から、35歳以上のカップルでは6ヶ月以上妊娠しなければ直ちに不妊症の検査と治療を開始すべきであるとされています。

夫婦とも問題がない場合、妊娠するまでどのくらいの期間がかかるのですか?

健康な男女の場合、一周期(毎月)で20%が妊娠するならば、累積妊娠率は6ヶ月目で74%くらい、12ヶ月目で90%以上になります。ですから、避妊をしなければ通常は1年以内にほとんど妊娠すると考えて良いでしょう。